ゆっくりと読み、ゆっくりと書く『遅いインターネット』

 

産休中。最低限のウォーキングをし、あとはひたすら読書をして自堕落に過ごしている。あまりに暇なので、Kindle Unlimitedで面白そうな本を物色することが楽しみになっているが、最近読んだ本がおもしろかったので感想をシェアしたい。

 

『遅いインターネット(宇野常寛 著)』

 

 

・ゲーマーが脱スマホ・脱インターネットを志した理由

私はゲーマーだ。ゲーマーというとインターネットにどっぷりと浸かっているイメージがあるが、私はSNSやインターネットからはなるべく距離を置くように試みている。

 

スマホのきっかけは、アンデシュ・ハンセンの『スマホ脳』という本を読んだこと。

 

以前はTwitterのヘビーユーザーだった。空いた時間はSNSを見るか、Googleで必要性のない記事を検索することに熱中していた。でも、今はSNSアプリはすべて削除して、LINEと電話以外の機能はほぼ使っていない。

 

理由は3つあって、

Google検索で得られる情報に以前ほどの価値を感じなくなったから

スマホの利便性と合わさって、常に不安に感じるから

SNSを通じた大衆のポピュリズム・批判に嫌気がさしたから

 

①について。

Googleの検索でひっかかる情報の価値を、以前ほど信じられなくなってしまった。

私は妊娠中だが、今回が初めての出産。産休に入ってからは妊娠中の疑問について不安になることが多かった。当然、Googleを使って自分が安心できる情報を探していた。

けれど、検索上位に表示されるのは広告収入目的のサイトばかりで、記事の質が決して良いとは言えない。書いてある情報は科学的根拠に乏しく、個人的な体験談の域を出ないものが多い。

 

何より、記事を読み終わった後に、関連記事としてセンセーショナルな記事(不倫の体験談漫画とか)を表示させられて、ついそれをタップしてしまうことが多かった。

刺激的なタイトルにつられて内容を読んでも、自分の不安が増すばかりで結局なにもいいことがない。でも気になるからつい読んでしまう。

 

妊娠中の不安を解消するためにネットを利用しているのに、新しく不安要素を増やしてどうするんだと。

 

 

②について。

スマートフォンを利用してネット上の情報を読むと、PCで読んでいる時に比べ、より不安が増幅される気がした。

手軽に見れるし直感的に操作できるから、刺激的な記事を読むループが止められない。

 

結局、自分の時間を無駄に浪費するばかりでメリットがない。おまけに読んだ内容は、次の日の朝にはたいてい覚えていなかったりする。

 

 

③について。

SNSに関して、『遅いインターネット』ではこんな一文がある。

いまこの国のインターネットは、ワイドショー/Twitterのタイムラインの潮目で善悪を判断する無党派層(愚民)と、 20 世紀的なイデオロギーに回帰し、ときにヘイトスピーチフェイクニュースを拡散することで精神安定を図る左右の党派層(カルト)に二分されている。

『遅いインターネット(宇野常寛著)』:kindle位置 212より引用

 

私のSNSの利用目的は、ゲームに関する発信と情報収集だった。

しかし、だれかのリツイートや自動表示されるツイート、日本のトレンドが、こういった内容のツイートを私のタイムラインに運んでくる。

政治的な発言はしないように心がけていたし、誰かを叩くためのツールとして活用することもなかった。でも一度こういった意見を読んでしまうと、頭の中から追い出すには時間がかかる。

 

なんだか疲れてしまって、SNSのアプリは全てスマホから消した。

おかげさまで、以前に比べてスマホを利用する時間が減った。私は格安スマホIIJmioを利用して、月のギガ数は4ギガに設定している。先月の利用ギガ数はたった0.7ギガだった。もったいないので、最低の2ギガプランに変更しようかと思ってる。

 

・価値ある情報を書けるようになるには?

 

インターネット上には何でもあるけれど、本当に価値があると思える情報は少ない。

しかし、私が価値のある情報を発信できるかというと自信がない。

 

1年ほど、本業の傍らでクラウドソーシングサイトを使ってライター業をしていた。ゆくゆくは本業にしたいと感じたこともあったけれど、辞めてしまった。

妊娠して記事を書くだけの体力が無くなったことと、自分の書いた記事に価値を感じられなかったことが大きな理由。

 

1〜2週間の期限の中で、クライアントにお金が入る記事を書くことが目標だ。そのためには、内容を刺激的にし、訪問者が記事をクリックするように仕向けることが必要になる。こうして生まれた記事は、私が心を乱されていた『ママ向けサイトに掲載されていた不倫の体験談』だったり、『妊娠中の胎児トラブルを煽ってモノを買わせようとする記事』と何も変わらない。

 

価値ある情報発信ができるようになるとはどういうことか?
このヒントが、本書『遅いインターネット』の中に載っていた。

 

・目的のあるライティングから、書くことを楽しむライティングへ

遅いインターネットで一つの解として示されているのが、良質な読み物とは、読んだ人が「価値転倒」を起こすような読み物であるということだ。

 

価値転倒とは、記事を読んだ人が新しい問題を設定し、新たな視点を獲得できるような状態のことを指す。

 

そして価値のある情報発信とは、YESかNOかを述べるのではなく、こうしてその対象を「読む」ことで得られたものから、自分で問題を設定することだ。単にこれを叩く/褒めるのが評価経済的に自分に有利か、不利かを考えるのではなく、その対象の投げかけに答えることで、新しく問題を設定することだ。ある記事に出会ったときにその賛否どちらに、どれくらいの距離で加担するかを判断するのではなく、その記事から着想して自分の手であたらしく問いを設定し、世界に存在する視点を増やすことだ。

『遅いインターネット(宇野常寛著)』:kindle位置 2291より引用

 

こうした価値の転倒は、「共感」の「いいね」の外側にある。人間は「共感」したときではなくむしろ想像を超えたものに触れたときに価値転倒を起こす。そして世界の見え方が変わるのだ

『遅いインターネット(宇野常寛著)』:kindle位置 2306より引用

 

Yahoo!ニュースなりのコメントを読むと、記事の内容に賛成・反対のコメントを書いて自分の意見を表明する人が多い。賛成・反対の意見を述べられるだけでは、読んだ人に新しい視点を与えるというところまで達していない。

 

 

slowinternet.jp

『遅いインターネット』では、ウェブマガジンを立ち上げている。良質な読み物を提供するとともに、読者に十分な発信能力を共有するワークショップを開催しているようだ。読者自身がのちのちに良質な発信ができるようになることを目指し、良い情報に触れるー自分でも発信するというスパイラルを回している。

 

私も、どうせならこういうものが書きたいと思う。

過去にブログに挑戦したこともあるし、自分が書いた情報が誰かの役に立つことを想像することは決して嫌いではなかった。それでも、自分の情報の価値が信じられなくて楽しめなかったのだ。ちなみにブログは、SNSで嫌がおうにでも入ってくる人々の収益報告やマネタイズの報告を読むうちに、他人と比較して自己嫌悪に陥ってしまった。今なら分かるけれど、目的が違ったのだ。書くことを手段に、金銭を目的にすることは、自分にはあっていなかったと今なら分かる。

 

著者は、書くことそのものを楽しむライティングを推奨している。ランニングをダイエットを目的にすると続かないけれど、走ることそのものを楽しめれば、自分のペースで継続する事ができる。

書くことも同じだと思う。

 

人間は何の目的もなく、ただ身体を動かすことそのものを楽しむ時間には、世界との距離感と進入角度をとても自由に試行錯誤することができる。それと同じことが「書く」ことにも「発信する」ことにも言えると思うのだ。

『遅いインターネット(宇野常寛著)』:kindle位置 2374より引用

 

・フローから考える、書くことに熱中するコツ

とはいえ、書くことはしんどい。

 

かの文豪、アーネスト・ヘミングウェイも、「書くということに特別なことはなにもない。ただタイプライターの前に座って血を流すだけだ。」との名言を残している。

 

最近はSNSで誰でも発信ができるようになって、書くことへのハードルは下がった。でも、自分自身読んで楽しめて、ある一定の価値があると認められる記事を自分で書くことは非常に難しい。

 

『遅いインターネット』を読んで次の課題は、いかに自分の「書く」という行為をブラッシュアップして、ほんの少しでも良質な情報につなげていくかだと思う。

 

そのために、まずは良質なインプットを行うこと。インプットは読書だったり、インターネットで良い記事を見つけて読むことだったりする。良いと感じた記事・書籍はブックマークやリストに登録して、どこが良かったのかを自分なりに分析してみる。

 

そして、書き続けること。書くことは一長一短にはうまくならない。続けるに当たって、アフィリエイトで広告収入が入ることを期待したり、読者がバンバン増えてちょっぴり有名になったりすることを期待してはいけない。書くことに付随する何かを期待すると、楽しくなくなるのは経験則で理解している。

 

私は、書くこと自体に楽しみを見出し、習慣化するには、フローに入ることが有効だと思ってる。

フロー状態に入る7つのコツ|チクセントミハイの「フロー理論」をわかりやすく解説 | 識学総研

 

ミハイ・チクセントミハイが提唱した概念で、高いレベルの集中を維持し、自分のスキルより少し上の挑戦をしているとき、人間はフローに入ることができるとされている。創造的な活動に没頭し、幸せを感じている時に人はフローに入っている。

 

『書く』ことに対して全くの初心者が、フローに入りやすくなるためのコツは

 

①ゴールを明確にすること

いきなり質の高い記事を書こう!と思っても目標が漠然としすぎているので、自分でスモールステップで小さな目標を立てて取り組むことが重要だと思う。たとえば、10記事書くとか、10000文字書くとか。

 

②フィードバックをもらえる環境に行く

書くことはフィードバックをもらいにくい。同じように書くことを学ぶ仲間を集めて、書いたものをお互いに批評し合う環境があればいいと思う。

 

③書こうとしている内容が難しすぎず、易しすぎない

今から書こうとしている内容が、自分にとってオーバー過ぎていないかを判断する必要がある。日々のメンタルや体調で左右されるので、昨日まで書けていたはずの内容が書けない!と思ったって落ち込まないほうがいい。

 

④集中しやすい環境を整える

PC周りには何もないのが望ましい。私は、机とPCとブログ用のメモ(A4用紙1枚)以外は置かない。かつ、PCは機内モードにして、スマホの電源は切るようにしてる。

 

 

・書くことが楽しいと思える日を目指して

ライティングにしろ、ブログにしろ、どうして続かないのか、楽しみを見いだせないのかが不思議だった。もちろんライティングを始めた人のうち、99%は途中で辞めている。続いているのは1%の人だけだということはわかっている。

 

それでも、何度も期間を開けてはブログに戻ってしまう。いままでブログは4つぐらい開設し、そのうち生き残っているのは1つだけ(半年更新してない)だ。

 

なんども戻ってくるのは、私が書くことを諦めきれないからだと思う。Googleを検索するたびに失望を覚えることも、SNSでの誹謗中傷を見ることももう飽き飽きしていた。私もどうせなら、価値のある情報を発信する側に回りたい。

 

どれだけ時間がかかるかはわからないけれど、少しずつでも書くことを続けて、レベルアップしていこうと思う。